福知山① レトロ銭湯「櫻湯」 |
福知山に1泊したのは、レトロ銭湯「櫻湯」に入りたかったから。昨年秋、やはりレトロ銭湯目当てで西舞鶴を訪れた際に、地元で銭湯をはじめとする街興しに活躍しておられる方々(KOKINの徳永さんら)にお会いし、福知山の櫻湯も絶賛お奨めされました。設備も老朽化していて、いつ閉まってもおかしくないので早く行ったほうがいい、と言われ、次に宿泊旅行するのなら福知山と決めていたのです。
櫻湯は、城下町・福知山の古いアーケード商店街から一筋裏に回った所にあります。福知山駅からは1km少々、徒歩だと20分くらい離れていますが、むしろ昔からの中心街のただ中と言っていい位置だと思います。
櫻湯の外観は下の写真の通り、洋風の洒落たデザインですが、間口はそう広くなく、いかにもローカルなこじんまりとしたサイズ感です。岡山の銭湯も大体こんな規模ですよね。
↓ 日中に撮った「櫻湯」正面外観。一見シンプルだが・・・、
日のあるうちはめいっぱい使って、福知山の街中あちこちに残るレトロな建物を見て歩き(櫻湯の外観も撮影し)、夕方暗くなってから入浴しに伺いました。さて、中はどんな感じなんだろう、とドキドキしながら男女別の入口から中へ。と、いきなり妙に広々とした土間スペース。そしてその奥に仕切りもなく続くのは、これまた奥行きのある脱衣場。予想外のウナギの寝床的奥深さです。妙な造りに目を奪われ、一瞬、番台はどこ?と探してしまいました。普通に入口を入ってすぐ、男女入口に挟まれた部分にありましたが・・・。
↓ 土間の下足スペースと番台。この部分だけ吹き抜け状に天井が高い。
↓ 土間から斜め上を見上げた図。マッサージ椅子が置かれている所からが脱衣場。
一段上がって板の間となる。この脱衣場の上に住居スペースらしき二階部分。
そこに上がるための階段も見える。土間の奥行きがあるので、番台から脱衣場まで
の間にも、それなりの幅の衝立が設けられているが珍しい。
わりと遅めの時間帯だったので、ほぼ貸切状態。奥から出てきた女将さんに、西舞鶴KOKINの徳永さんのお奨めで来ました、と告げると大歓迎してくれました。徳永さんはよく来られるそうで、今日も多忙な中早い時間帯にひとっ風呂浴びて帰られたとか。
少なくとも女湯には誰もいなかったので、さっそく写真を撮らせていただきました。
↓ 渋い色合いの脱衣場。岡山児島の「昭和湯」にちょっと似た雰囲気。
このカゴに服などを入れ、カゴごとロッカーに収納するという京都式。
メインのガラス戸はサッシだが、上部の小窓、脱衣場側・浴室側の窓はレトロな木枠。
京都府の銭湯には珍しく、浴槽の周囲に腰掛け段がある(大阪式)。
で作られた「本業タイル」と呼ばれる逸品だそう。
お湯はなみなみと張られ、特に手前の浴槽からはオーバーフローしています。浴槽縁の細かなタイルをゆらめかせながら湯があふれ出る様子に、思わず見とれてしまいました。特に仕切り壁側の縁は幅広に作られていて、その上を滑るお湯が何とも言えずきれい。使っているのは地下水だそうです。いいですねぇ。これだけは岡山の銭湯では味わえない(岡山も水が豊かな地なのに、なぜか地下水を使う銭湯はないので・・・)。お湯の温度はそれほど高くなく、熱いのが苦手な私には入りやすかったです。カランの湯もぬるめ(一般的には激熱なのが多いけど)。水でさほど薄めなくていいので、これまたいいわ。
↓ 低めの天井だが、明るいので圧迫感はない。仕切り壁には小鳥や魚の飾りも。
天井は低めで、ペンキ塗装の板張り。銭湯の天井といえば高くて広々、というのは都会の話で、岡山などローカル銭湯には、こんな感じの天井はよくありますね。程よくこじんまりとした感じがなんかすごくリラックスできる雰囲気で、居心地良かったです。
松本康治さん著の『関西のレトロ銭湯』によると、櫻湯の建物は明治34年の築なのだそう。当初は唐破風を持つ和風の外観だったのを、昭和の初めに玄関部分を改装して現在のような形になったとのこと。妙に広く高い土間スペースや、脱衣場の上から唐突に始まる二階部分など、あの不思議な造りは、その時の改装の産物なんでしょうね。
女将さんの話では、脱衣場と浴室との間のスペース(流し台や坪庭のある所)は、当初は池に太鼓橋が架かるという洒落た造りだったのだとか。京都市の有名な豪華レトロ銭湯「船岡温泉」みたいな感じだったのかな。ローカル銭湯にしてはめちゃ凝っているじゃないですか! しかし、池のメンテナンスが大変だったため、現在のようなシンプルな造りに改装されたのだそうです。
↓ 玄関上に灯るレトロな照明も味わい深い。
気さくで話好な女将さんと四方山話も交えいろいろおしゃべりしていたら、あっという間に終業時間間近になってしまいました。1時間半は余裕を持って訪れたはずなのに・・・。こんなことならもっと早く来ればよかった! 店じまいのためにか、奥から番頭さん(女将さんのお兄さん)も現われました。
二人体制で営業されている銭湯は先が比較的安泰という感触を持っているのですが、女将さんの話によると、やはり配管やボイラーなど機械の老朽化が激しく、いつ壊れてもおかしくないとのこと。修理するとなると何百万もお金がかかるし、そこまでして続けられるかどうか、と。昔はこの界隈にもいくつも銭湯があったのだけれど、ウチが福知山最後の一軒になってしまった、と嘆いておられました。京都や大阪などとは違い、地方都市ではお客さんもそう多くはないでしょうからね。岡山も同様ですが・・・。悩ましいところです。
とはいえ、KOKINの徳永さんや、福知山の活性化を目指す方々が櫻湯の支援活動をされているとのことで、ローカルテレビなどに取り上げられたりもしているそう。遠く外国からの訪問客もあるとか。街角文化遺産ともいうべき唯一無二の銭湯だけに、ぜひぜひ生き残って欲しいものです。四国・八幡浜市の「大正湯」のように、市の補助とか受けられないかなぁ。観光名所になれる要素は多分にあると思うのですが・・・。
↓ 暖簾のかかった夕方明るい時間帯の「櫻湯」。知人に手を振る女将さん。
ローカル感あふれる中にも、独特の凝った造りやデザインが魅力的な櫻湯・・・。こじんまりとしたサイズ感や脱衣場などの鄙びたオーラはいかにもローカルなのに、洋風の外観や華やかなタイル使い、中庭付きの次の間(?)をわざわざ設けるところなんぞは、京都あたりの銭湯にも引けをとらない贅沢感と洗練さ、という不思議な取り合わせが何とも言えません。京都や大阪などの王道を行く華麗なるレトロ銭湯とはまた違った味わいで、無性に惹き付けられます。岡山ローカル銭湯になじむ者としては親近感も感じられるし・・・。陰ながら大いに応援しています。寄付活動とかあればもちろん賛同しますよ。
↓ 玄関の向かって左側にある、通り庭(通り土間)のような部分。釜場への出入り通路?
福知山編、まだ続きます。時系列が逆になりますが、昼間見て回った福知山の街並みを次の項で紹介します。こちらも見応えあり!