百年銭湯「大正湯」と八幡浜の街並み |
大正湯は、その名の通り大正4年(1915年)創業の老舗銭湯。創業当初からの建物で100年間営業してきましたが、老朽化のため(ボイラーの故障)一昨年にやむなく休業したところ、惜しむ声が高まり、市の補助も受けて改修工事を行った上、昨年9月に営業を再開しました。そのニュースは銭湯ファンの間ではつとに知られており、Tさんも改装以前から注目していて、ぜひ一度行きたい!と思っていたそうです。岡山から日帰りでちょこっと行くにはかなり遠い所なのにもかかわらず、運転慣れしたTさんは車でひとっ走り連れて行ってくれました。
大正湯の紹介と営業再開のいきさつは、銭湯愛好家・松本康治さんの新刊『レトロ銭湯へようこそ 西日本版』にも掲載されています。
清心温泉では本の発売と同時に30冊取り寄せて店頭で販売されていましたが、既にもう売り切れた模様。ご興味のある方は、本屋さんで買ってくださいね! 岡山県からは他に、鶴湯、東湯、福島温泉(以上、岡山市)、戎湯(倉敷市鶴形)、昭和湯(倉敷市児島)、大黒湯(倉敷市下津井)が登場しています。
松本康治・著 『レトロ銭湯へようこそ 西日本版』 戎光祥出版、
2017年5月10日発行、1600円(+税)
さて本題に戻って大正湯ですが、中心商店街からは少し東へ行った街なかに、特徴的な洋風外観を見せて建っていました。下見板張りペンキ塗装の平面的なデザイン。きれいに塗り直された淡い浅葱色のペンキ塗装が目にまぶしい。改修前の写真をみると、ペンキ剥げ剥げの激渋な佇まいで、まるで映画のセットさながらだったそうです。裏手に駐車場があると聞いたので、まずそちらに向かうと、そこは釜場に続く空間でした。駐車場の奥には高い煙突がドーン。地面から直接立ち上がっているのがスゴイ。
脱衣場も壁や男女仕切りは新しいべニア板になっていて、古ぼけた感はあまりありません。そんな中、脱衣ロッカーと床は年季の入った飴色でレトロ感を盛り上げています。特に使い込まれた板張りの床はなめらかでサラッと足触りも良く、さすが!と感じました。ロッカーは一区切りが小さい(浅い)のに驚きました。薄着の季節だから入ったけど、上着の要る冬だったら2つ使いたくなるかも。
浴室はスッキリきれいでとても明るい印象。タイルを貼り直し、壁や天井も塗り直すなり張り替えるなりしたようです。そのきれいな壁に、若干剥げちょろけ気味の古い鏡が貼られているところがニクイ。タイルを貼り直したとはいえ、浴槽の形や配置はそのままだそうです。真ん中に楕円形の主浴槽があり、奥の壁際に四角い浴槽が2つあります。それぞれタイルの配色を変えており、見た目にも美しい。改修以前は、タイルは剥げ剥げで、布テープで補修した部分もあったとか。そんなディープな状態も見てみたかったけど(建物外観も含め)、やはり実際に使うにはきれいなほうが気持ちいいですよね。
カラン(蛇口)の下に横たわる横長の台(段)は石製。緑がかったきれいな石ですが、以前のものを磨き直して使っているのかな。改修前の写真では、所々変色して痛んでいるように見えたので。普通のカラン下の台より若干高く感じましたが、そのへんも昔仕様なのでしょうか。
せっかくはるばる八幡浜まで来たので、街並みも見て歩きました。というか、実際は市内の街並みをあれこれ見てから最後に銭湯に行ったのですが。
八幡浜は古くから九州や関西との交易港として栄えた街です。「伊予の大阪」とも呼ばれたとか。八幡浜市のHPには観光情報や街歩きマップなどがいろいろ載っていて、観光にはかなり力を入れている様子。これまで縁もなくあまり知らなかった街だけに、これには驚きました。愛媛県といえば、松山や道後温泉、せいぜい今治くらいしか認識していなかったので。
新町商店街というアーケード街の東側が江戸時代以来の旧市街地だそうで(当時の海岸線がアーケードの一筋東だったため)、古い重厚な商家の建物などが点在しています。見どころの建物の前には、現地解説板もしっかり設置。江戸時代から続くという染物屋さんでは、店(作業場)の中まで見せてくれて、女将さんが丁寧に解説してくれました。ここには街歩きマップなどの観光資料もいろいろ置かれていて、ちょっとした民間観光案内所さながらでした。
↓ 和風モダンな元・歯科医院。看板の書体がお洒落。
道を聞くなどして街で出会った人々もとても丁寧な対応で、街を挙げてウェルカムな姿勢が伝わってきます。港には飲食やお土産販売のための新しそうな大型観光施設も。染物屋女将さんのお奨めで、少し離れた(車で10分くらいの)保内地区も見て来ましたが、ここでも、ささやかながら観光客向け駐車場やトイレが用意されているなど、受け入れ態勢バッチリ。この地区の目玉建物である「旧白石和太郎邸洋館」では、常駐スタッフらしき人が丁寧に内部を案内・解説してくれたばかりか、周囲の見どころもいろいろ教えてくれました。
↓ 八幡浜市保内町の「旧白石和太郎邸洋館」
明治の地元実業家(鉱業・紡績業)が建てた事務所兼応接施設。明治36年頃の築。
今でもここで蚕を育てているそう。見たかった!
とても見応えのある街歩きでした。地方の小さな街でも、やる気次第で充実した観光を提供できるという好例ですね。城や名庭園、有名な寺社、伝建地区(いわゆる美観地区的な街並み)や景勝地といったようなものがなくては観光にならない、と思い込んでいる人たちに見せたいくらい。こういう普段の生活や産業に密着した昔ながらのものを大切にし、観光につなげてアピールする姿勢って、素晴らしいと思います。そんな土地柄だから、一民間レトロ銭湯の改修にも市がポンとお金を出してくれたんだろうなぁ、と納得。
地方の程々の規模の街で、かつては城下町や港町として栄えたけれど、その後停滞し、しかも戦災に遭っていない街には、大抵レトロな建物が豊富に残っていますよね。以前訪ねた三原とか丸亀とか・・・。日本全国見渡せば、こういう街はそう珍しくもないのかもしれませんが、ただ寂れて残っている(顧みられていない)というのと、意識的にレトロをアピールして観光活用しているのとでは大違い。やはり意識している街は、レトロ残存率も高いように感じます。大切にしているからでしょうね。
帰宅してから、現地でもらったリーフレットをじっくり読んだり、ネット検索してみたら、まだまだ他にも面白そうなレトロ建造物はたくさんあるようでした。これは泊りがけで来なければ無理そう。時間を気にせずにくまなく歩き回ったら、いくらでも楽しめそうな街です。まあ、鉄道でも行けるし(JR予讃線、八幡浜駅)、スーパーホテル等の手軽な宿もあるようなので、そのうちいつか改めて再訪したいものです。
それにしても、Tさんが大正湯に誘ってくれなければ、行くことも知ることもなかった八幡浜という街。長時間車を運転してくれたことも含め、感謝しております。
「レトロ銭湯へようこそ西日本版」ご紹介くださり、ありがとうございます!
当ブログを覘いていただいて光栄です。
清心温泉で出会った“銭湯友”Tさんのおかげで、アクセスの少々悪い地にも足を延ばせ、レトロ銭湯訪問の幅が広がりました。ご著書を参考に、二人で児島方面の「昭和湯」と「大黒湯」にも行ってきました。地元岡山でも未訪だったので。近々レポートをアップする予定です。
またいつか、清心温泉でお会いできることを楽しみにしております。