京都のレトロ銭湯 「京極湯」と「源湯」 |
前回目にした「今日はあひるがおります」という看板がずっと気になっていたので、まず番台で尋ねてみると、アヒルのおもちゃを浮かべるのは基本的に金・土・日の週末とのこと。この日ももう1泊の翌日も平日だったので、残念ながら今回はアヒルには遭遇できず・・・。でも、気を取り直して入りました。内部も溜息のレトロワールド。文章を長々と連ねるのも野暮なので、写真で紹介します(お客さんがはけた一時を狙って、女将さんに許可を得て撮影しました)。
まず、玄関の下足入れがこれ。扉は昭和高度成長期テイストの合板製だけど、鶴亀の錠と木札の鍵は昔ながらでいい感じ。
そして、浴室の手前には素敵な曲面を持つタイルの流し。色分けされた細かいタイル使いにうっとり。
上がってから、番台の女将さんに聞いてみたら、おもちゃのアヒルは甥っ子の発案で始めたのだとか。少しでも面白いことをしようということで・・・。あひるの日には浴槽にこのソフビあひるが多数浮かぶそうです。最近は痛んできて数が減ってきたため、買い足さなければと思っているところだそう。小さなアヒルが沢山浮かぶお風呂って、なんだか癒されそうです。
ここで生まれ育ち70歳になるご主人は2代目だそうですが、銭湯自体は先代(ご主人のお父さん)がここに入る以前からあったので、相当古いと思うとのこと。大正~昭和初期といったところでしょうか。珍しい煉瓦の煙突が古さを物語っていますね。浴室内装は昭和45年(1970年)に全面的に改修して現在のような凝ったタイル貼りにしたそうです。昭和後期とはいえ、既に半世紀近く経っており、今ではとても再現できない職人技だそう。
この自慢の浴室を男女仕切り壁上から俯瞰で撮った写真が脱衣場に飾られていて、『らくたび文庫 京の銭湯 本日もあります』(林宏樹、2008年)という本に載ったものだと女将さんが説明してくれました。その本なら持っているので、帰宅してから確かめてみたところ、冒頭見開きでドーンと使われていました!
湯は井戸水を薪で焚いたものだそう。京都はこういうのが多いですね。贅沢!
しかし、ここ京極湯は、こういう由緒正しきクラシック銭湯というだけでない、別の面がまた面白いのです。門の上に掲げられたレトロポップな水玉模様看板もさることながら、ブロック塀の派手なペインティング、前庭の植木に施されたチカチカ電飾などなど、妙にキッチュでミスマッチなところに心惹かれます。女将さんによれば、ペインティングは古ぼけた塀を少しでも見栄えよくするために若いセミプロのアーティストに描いてもらったのだとか。電飾はご主人の発案だそうです。アヒルやミニオンが所々に付いているでしょ、と女将さん。え、何それ? 見てみたら、確かに所々でアヒルとミニオンが光ってました。最近ミニオンズが流行っていると聞き、ご主人が急きょ加えたものだそうです。足元には、京都らしく平安貴族と平安美人の絵柄の付いた灯篭が置かれていましたが・・・。
京極湯は何年か前に、若いアーティストの作品展示に銭湯内を使ってもらうという芸術祭にも参加したそうです。というより、ご主人はその「京都銭湯芸術祭」で中心的な役割を果たした一人らしい。帰宅してネット検索していて知り、驚きました。女将さんも話好きな気さくな方で、私が岡山から来たと伝えたら、岡山にはどんな銭湯があるの?と、手元にあった銭湯本『レトロ銭湯へようこそ 西日本編』(松本康治、2017年)をめくりながら、興味津々の様子。その本で数ページが割かれている「清心温泉」によく行っています、ユニークな銭湯なんです、他にも御影石づくしの銭湯もあります、と岡山の銭湯もアピールしておきました。
経営者夫妻はそんなに若くないのに、意外にも、とっても自由で楽しげでウェルカムな雰囲気に溢れた魅力的な銭湯でした。また行きたいな。今度こそアヒルの日を狙って。
翌日夜には「源湯」(上京区北町)へ。大将軍神社の300mくらい南、天神川のほとりです。こちらも京都の銭湯本には必ず出ているレトロ銭湯で、すごく風情ある佇まいなのですが、前日の京極湯のインパクトがあまりに強烈だったため、やや印象薄し。番台の番頭さんも口数少なめな感じだったし。銭湯そのものは古いけれど、現在の店主はここへ入って20年くらいだそうです。銭湯って代々身内(子供)が継ぐばかりでなく、全くの他人が引き継ぐってパターンが意外と多いんですね。
脱衣場は和風レトロ感満載、浴室は一転してスッキリとしたタイルの空間。繊細な曲面が美しかった京極湯に比べると、全体にカクカクとした印象のデザインですが・・・。その代り、具象的な装飾が大いに魅せます。奥の壁面には、男女ぶち抜きで山の風景のモザイク画がドーン! アルプス風の山に湖畔のシャトーというヨーロピアンな風景です。吐湯口を兼ねているのはイルカに乗ったビーナス像。浅風呂の底には泳ぐ鯉のタイルモザイクが揺らめいています。ジェットバブルの浴槽が、色の変化する照明入りなのも面白い。
訪問したのが夕方暗くなってからで、外観が充分楽しめなかったのは残念でした。天神川越しに闇にうっすら見える高いコンクリート煙突なぞ、素敵な風情でしたよ。正面入り口脇、天神川のほとりにお地蔵さんの祠があるのもいい感じ。もう少し明るい時にまた見てみたいです。