今度は牛窓 |
↓ 牛窓天神社から見下ろした牛窓の家並み。
細長く広がる牛窓の街の中で、この辺りがかつて遊郭だった。
牛窓は、古い町並みは比較的よく残っていますが、遊郭に関してはだいぶ残念な感じです。元妓楼だった建物は何軒か残ってはいるのですが、後に大きく改変されていて、当時の面影があまりないというか・・・。むしろ当時の面影をよく残していたという建物は、既に取り壊されていました。牛窓には以前に一度、2012年7月に行っていますが(当ブログでも簡単にレポートしています)、その時点でその建物はもうありませんでした。映画「カンゾー先生」(1998年公開)の作中でも、妓楼としてロケに使われた建物だそうです。もっともっと早く牛窓には行くべきだった!
↓ この並びの家々は最後の時期まで妓楼だった建物。終点「牛窓」バス停がある広場
に面している。外装はかなり改変されているので、当時の面影はあまりない。
車を運転しない私にとって、牛窓は交通の便が悪く、気軽には行きづらい所です。JR赤穂線と路線バスを乗り継げば行けるのですが、何か心理的に・・・。それにしても、古い港町はなんでどこも駅近じゃないんだろう。下津井も玉島も日比もJR駅から離れていて、駅からさらにバスでアクセスするというパターンです。海運の街は近代化の際に、陸運に反発して鉄道駅を拒否した、なんていう説もありますが。結局いずれの街も、鉄道駅から離れていたため時流に乗り遅れて落ち目になってしまった、とも言えますね。また、それだからこそ、タイムカプセルのように古いレトロな家並みが残った、とも言えますが。
↓ 牛窓の元遊郭エリアに残る木造3階建て。妓楼ではなく、元料亭。
前回訪問した玉島は、アーケード商店街がいくつもあるなど、かつては〝都市”であったろう面影を残す街という印象でしたが、牛窓は、下津井や日比ほど鄙びてはいないものの、都会的な雰囲気はあまりありません。聞けば、かつては備前東部一の大きな街として、警察署・裁判所などを含む様々な行政機関、いくつもの銀行の支店が置かれ、映画館やパチンコ屋なども複数あったそうです。唐琴通りもかつては「牛窓銀座」と呼ばれるほどの賑わいだったとか。地元中小企業による近代造船業も一時は盛んだったとのこと。そういう点では玉島に似ています。ただ牛窓は、下津井と同じく平地が海岸沿いにしかないため、海に沿った細長い街にならざるを得ず、都市的な面の広がりを持った街にはなれなかったようです。
↓ 旧遊郭エリアの路地裏。比較的きちんとした街並みが続く牛窓の
中では、珍しく怪しげな廃墟的雰囲気。
私が好きな複雑怪奇な猥雑さや昭和キッチュな雰囲気は少なかったけれど、普通の古い民家や商店がいい味出してるという点では、牛窓はまさに私好みの街でした。古い家並みを売りにしている街というと、往々にして豪商の蔵屋敷が並ぶといった大げさな感じの場合も多いのですが、私個人はそういうのはあんまり・・・。
今回2回の牛窓訪問のうち、1回は「牛窓八朔ひなかざり」というイベント期間に合わせて行きました。旧暦8月1日にも虫干しを兼ねて雛人形を飾るという風習にちなんだもので、民家の玄関先や商店の店先に飾られた雛人形を自由に見て回れるという街興しイベントです。普段閉まっている家の中も見れるかも、という期待と共に訪問。たとえ玄関先とはいえ、面白かったです。有料で中をうやうやしく見学させる文化財級の豪邸などより、こういうのが好きなのですよ。生活感あるというか・・・。
↓ 元郵便局。現在は喫茶店として使われている。
ある元船会社(海運業者)のお宅では、家主がおられて、興味を示した私ともう一人(たまたま居合わせた男子大学生)に奥の隅々まで案内して見せてくれました。裏庭に井戸があり、その脇に台所、奥に風呂場などがある古風な造りでした。主人一家と従業員たちの動線が重ならないようにできている造りなど、面白かった。
↓ 元船会社「千當丸本店」。現在は空き家だが、イベント時には開けるそう。
別の商店2軒では、イベントとは関係なく、遊郭のことを尋ねたのがきっかけで家の内部を見せてくださいました。ちょっと見てみる?という感じで。遊郭に関しても、丁寧にたくさんの情報を教えてくれました。そんなわけで、絵になる元遊郭の街並みはあまり残っていないにもかかわらず、牛窓遊郭の取材はとても充実したものになりました。この2軒も含め街の皆さんが快く熱心に教えてくださるのです(イベント以外の日でも)。ただ昔のことを知っているから話す、というだけでなく、地元の歴史や文化に思い入れがあって、きちんとした知識に基づいて話せる人が多いのには驚きました。倉敷なども、町の人々が皆それぞれプチ文化人という印象を受けますが、牛窓にも同じようなものを感じました。さすが、昔から高い文化を誇ってきた歴史ある街ですね。
↓ 「正本写真館」旧館。大正時代の築。現在は近くに新しい店舗を構えており、
こちらは使われていない。正本写真館は明治前期から代々写真館を営む老舗。
津山の「江見写真館」のように、資料的に貴重な写真を沢山所蔵しておられ、
しばしば書物や市や県の展示などに使われている。
家の中を見せてくれるのも、そういう歴史ある町で古くからの家に住んでいるということに誇りを持たれているからでしょう。いずれもお宅も、がっしりした梁と頑丈そうな天井板が印象的でした。驚いたのは、どこも天井裏というものがなく、天井板がそのまま2階の床板である点。これって牛窓の民家の特徴なんですかね。建築に詳しくないので何とも言えませんが。
↓ 民家の梁と天井。この天井板がそのまま2階の床板になっている。
牛窓では、今月末に今度はアート関係の街イベントがあるそうです。「牛窓しおまちアート」9月29日~10月1日、というもの。毎年開催しているイベントのようで、これまでにも行きたいなと思ったことはありますが、アクセスしにくさがネックで諦めた覚えがあります。聞けば、雛飾りイベント以上に建物内部が見られる可能性があるとか。アートだと展示やワークショップで場所をとる場合が多いからでしょう。今回、玄関先しか見られなかった元妓楼(後に旅館に転身)も、アートイベントでは2階を使うかも、と聞き、また行こう!と心に決めました。行き慣れて、牛窓はそんなに遠く感じなくなったこともあって・・・。