ニッポン銭湯王国展inひょうご |
『ノオト』第17号でも取材した「清心温泉」のブログを見て知ったのですが、日本全国の貴重な銭湯グッズ、写真、情報などなどが展示されるイベントなのだとか。この世界を代表する銭湯愛好家たちのトークショーも目白押し、しかも!岡山からはなんと「清心温泉」番頭さん(あるじ)も堂々参戦!とあって、これは行かずにはいられません。おまけに、会場は大正時代の元警察署というレトロ建物。普段は見れない地下留置所の案内ツアーもあり、ということで、ますます行きたくなりました。幸い「鉄道の日」記念とかいうJR西日本一日乗り放題きっぷ3000円(利用期間10月5日~20日、普通・快速・新快速列車のみ)が使えると分かったので、もう決まりです。
ジャーン! これ(↓)が会場の旧尼崎警察署。大正15年(1926年)築。カッコいい~!
確かに普段は閉ざされているだけあって内部はかなりボロっちい。壁の塗装があちこちボロボロ剥げていたり、児童館用に中途半端に改造した跡が無粋にむき出しだったり・・・。きれいに修復したらさぞや立派になりそうな凝った洋風建築ですが、しかし、現状の廃墟テイストもまたいい味わいです。そんな空間で、今や絶滅危惧種的庶民文化遺産である銭湯のイベントを執り行うというのですから、似合い過ぎ!
暖簾をくぐって(!)正面入口を入ると、いきなり富士山のペンキ絵がドーンとお出迎え。今や数少ない風呂屋専門ペンキ絵師に描いてもらった作品だそうです。受付のような所にいたスタッフの女性に、地下留置所ツアー実施時間等を尋ねながら、ふと見ると、見覚えのある男性が近くに・・・。このイベントの主催者(中心企画者)松本康治氏のような? 1~2度小さな顔写真を見たことがあるだけなので、自信はなかったのですが、思い切って声を掛けてみました。やはりご本人でした! 関西の銭湯マニア界では超有名な方で、『ノオト』第10号銭湯特集ではこの方の著書やブログを大いに参考にさせていただきました。「清心温泉」についても、ご自身のブログで感動的な(!)レポートを書いておられます。これを見て全国から清心温泉に駆け付けた銭湯ファンも結構いるとか。
有名な銭湯愛好家ブログは他にもありますが、この方のレポートはオタク感あふれる熱い語り口が面白く(銭湯愛がバシバシ伝わってくる!)、ついつい何度もくり返し読んでしまうほど。しかし実際にお会いしてみると、とても真面目な、どこか学校の先生みたいな感じの方で(見た目も物腰も)ちょっと意外でした。う~ん、あれは文才なんだ・・・すごいな。
12日には、この松本氏や、やはり銭湯マニア界では超有名な町田忍氏のトークショーもあったけど、さすがに遠方から連チャンでは訪問できず涙を呑んでいたので、この日、松本氏ご本人にお会いできただけでも来た甲斐ありました!
展示内容の詳細は、銭湯王国展公式HP&Facebookに譲るとして(コチラ→)、尼崎市の全銭湯や全国の代表的な銭湯の写真展示、町田忍氏提供の銭湯グッズコレクションの数々、今はなき廃業銭湯の記録写真、阪神大震災や東日本大震災での銭湯の被害状況レポートなどなど、興味深いものばかりでした。展示に関わったスタッフ(銭湯ファンたち)が会場におられて、質問すればいくらでも説明してもらえそうでしたが、複数のトークショーを聴いたり、留置所ツアーに参加したりと、限られた時間内にすること沢山で時間があまりなかったのが残念。
それにしても、関西の銭湯はどこも内装が華麗で(特にタイル装飾がすごい!)圧倒されました。尼崎市の銭湯はすべて写真紹介されているのですが、特に名物銭湯でもない普通の銭湯でも浴槽の形やタイルが凝っていて、さすが都会の銭湯は違う、と感心させられました。東京は宮造り風の大屋根や富士山大壁画などが有名ですが、それとはまた違った派手派手しさです。東京や関西では、風流な和風の庭があって脱衣場から眺められる所も多い。贅沢~!
そうそう、地下留置所ツアーも面白かったです。ガイド役の美人女性スタッフが懐中電灯片手に(これは演出ではなく、実際電灯の点かないエリアもあるので)、制服制帽姿の「女看守」風コスプレなのがいいぞ! 説明も詳しくかつ分かりやすくて名ガイドでした。ドラマに出て来るような取調室や独房の実物(それもレトロバージョン)を目にできるだけでもワクワクでしたが、壁に当時の貼り紙や落書きが残っているのが生々しかった~!
↓ 独房の扉
↓ 地下にある台所。煉瓦のかまどがある!
さて、地上階に戻って、クラシックな階段手摺りにカメラを向けていたら、「清心温泉」番頭さんがいきなり写り込みました!(↓)
番頭さんのトークの演題は「清心温泉の奇跡とは何か」。しかしそのセンセーショナルな(?)演題に反するかのように、プロジェクターの画像も使わず、ひたすら真摯に謙虚に淡々と25分ほど話されました。要約すると以下のごとく。ここの展示で紹介されているような立派な設えもない粗末な銭湯なのでお見せするほどの写真はございません(というか、私が思うに、清心温泉が特に地味なのではなく、岡山の銭湯の標準がこうなのですが。これがローカルスタンダードだということは、都会の銭湯ファン・銭湯関係者には分かりづらいかも・・・)。、銭湯で生計を立てているわけでもなく、不定期に営業するだけのウチを、銭湯の成功例としてお話するわけにはいかない。自分は銭湯を継ぐつもりもなかったので、風呂沸かしも経営もド素人。ただ支えてくれるボランティアとお客さんに恵まれただけです。しいて言えば、設備自体に何も呼び物的要素がないので、自分自身を名物男に仕立てたこと、ブログ・Facebookで積極的な情報発信をしたこと、ぐらいかな、と。
このあと、番頭さんいわく“真打の”少年登場! 5分ほどの短いスピーチでしたが、学校で行なったのと同じスピーチを堂々披露してくれました。人との出会いや交流の場としての素晴らしさ、番頭さんやボランティアたちの頑張る熱い姿、これらが自分を惹き付けるのだ、という趣旨を、少年らしい素直さで語る内容でした。割れるような拍手。番頭さんのトークを聴いてもなお、何でそんな素人感覚の何もない銭湯が繁盛しているのか不思議顔だった聴衆たちも、このスピーチで多分みな納得してもらえたと思います。
展示会場では、廃業寸前だったのに、銭湯ファンの応援で蘇った姫路市のレトロ銭湯「白浜温泉」の実例も紹介されていました(去年から今年にかけての最近の話!)。今回の銭湯展主催者である松本氏が旗振り役だったようです。タイル補修や掃除などをシロウトの銭湯ファンたちが集まって行なっている写真を見ながら、奉還町の「畷(NAWATE)」の工事を思い出しました。若者たちのボランティアが暑いなか黙々とペンキ塗りをしていましたっけ。でも、なんだかとっても楽しそうでした。何かを協力して自らの手で作り上げる充実感とでも言うのでしょうか。清心温泉の魅力も同じようなものだと思います。平凡な古い銭湯をみんなで寄ってたかって盛りたてて行く楽しさ、面白さ。でも、当の主人(経営者)が乗り気でなければ始まらないわけで、そんな場を惜しげもなく提供してくれて、なおかつあるじ自身も頑張る清心温泉や白浜温泉はやはり、あっぱれな心意気の稀なる「奇跡の銭湯」なのだと思います。
そんな展示やトークを見聞きしていたら、倉敷の超クラシックな「船五湯」や「橘湯」、玉島の華麗なる「港湯」(廃業したが建物は現存)も、何とか残す手立てはないものか、なんて思いが頭をもたげてきました。もちろん銭湯だけでなく、例えば番町の古い家々とか、岡山市内に点在するレトロビルとか・・・。(奉還町のスターハウスは既に撤去決定だそうですが。涙~。)
この銭湯展に関わっている皆さんは、行動力や連携が本当に素晴らしい! こういう大がかりなイベントを開催できること自体が何よりもその証しです。日頃から銭湯見学街歩きとかを定期的に実施しておられるそうだし。私もただレトロ建築や街並みをレポートし、時にはそれが無くなるのを傍観して嘆くだけではなく、もっと積極的な何かをすべきなのではないだろうか、と色々考えさせられ、刺激を受けました。いきなり市民運動的保存運動をブチ上げるのではなく(まあ実際問題かなり無理だし)、まずは地道に街歩き見学ツアーや展示イベントなどを積み重ね、いざという時には同志に呼び掛けて具体的な行動を起こす、ざっと言えばこんな感じかな。言うは簡単、実行するのは勇気も手間も要って大変でしょうけど。
いろいろ勉強になりました。やっぱりはるばる見に行ってよかった~!次回があれば、またぜひ行きたいと思います。