奈良旅行レポート第4弾です。こうして並べてみると、何だかテーマは“伝説の現場を訪ねて”って感じですね。別にはじめから意識的にそうしていたわけでもないのですが…。神社仏閣の名建築や仏像など、形ある物を観光するのと違って、伝説には形がない場合がほとんどなので、ビジュアル的には地味かもしれません。が、その分、思い入れと妄想を総動員して一人秘かに盛り上がっております。
ならまちの真ん中に「元興寺」という由緒あるお寺があります。というより、元興寺最盛期の境内が、後に市街地化してならまちになった、と言ったほうが正確かもしれません。元興寺には鬼の伝説があります。いつの頃か、元興寺の鐘楼に鬼が出没して人々を怖がらせました。寺で働いていた、雷の申し子という怪力の童子(のちに道場法師という僧侶になった)が鬼退治を買って出て、ある夜、鬼と取っ組み合いになりますが、ついに鬼は逃げ出し、追いかける童子を振り切って姿をくらましました。以来、鬼が消えた辺りを「不審ヶ辻子(ふしんがづし)」と呼ぶようになったといいます。
そのまさに不審ヶ辻子に今回泊りました。「ゲストハウスたむら」という宿です。いかにも“不審”な雰囲気の細い路地を入った先にあります。有名な高級レトロホテル「奈良ホテル」の裏みたいな場所。ゲストハウスに泊るのは初めてでしたが、この立地に惹かれて決めました。ゲストハウスとは、相部屋(ドミトリー)、風呂・トイレ共用といった形で、格安で宿泊できる一種の民宿です。どんなものか少し不安もありましたが、やっぱりここにして良かった!なんたって、建物自体がレトロな年代物なのです。
大正時代に建てられた民家とのことで、特に玄関と入ってすぐの応接間が洋風レトロでカッコいい。宿を経営する女性オーナーのお祖母さんが長年住んでいた家だそうで、お祖母さんが亡くなった後しばらく空き家になっていたのをリノベーションして、つい最近ゲストハウスとしてオープンしたのだとか。一時は取り壊して駐車場にする話もあったそうです。そうならなくて良かった~!
家のすぐ脇には尾花谷川という小川が流れ、川沿いの道を挟んだ向こう側には、奈良ホテル敷地の緑を眺めることができます。朝には鹿の姿も…。奈良ホテルが建っている場所は小高い丘になっていて、昔は「鬼棲山」と呼ばれていたそうです。姿を消した鬼は、自分のこの寝ぐらにもぐり込んだのでしょうか。
路地の入口あたりはまさに“不審”でも、ゲストハウスがある奥のほうは、奈良ホテルの高級感の成せる業か、閑静でハイカラな雰囲気が漂っています。鬼はもう出そうじゃありませんが、賑やかな通りから一筋裏に入っただけなのに、この別世界感は異界の入口にふさわしいかも…と思いました。