また京都 ②銭湯と夜の街 |
今回は西陣にある「長者湯」(上京区須浜東町)という銭湯に入ってきました。今回泊まった宿からはほんのひとかど(約150m)という近さ。まあ、ラジオ塔のある橘公園や銭湯、後述する聚楽第の史跡に近いからこのゲストハウスを選んだのですが・・・。このところ京都にはよく行くわりに、定宿のようなものは決めておらず、その度ごとに(見たい方面に応じて)点々としています。
宿から近い利点を生かし、とりあえず日があるうちに建物外観を撮りに行きました。正面玄関上の銅板葺きの唐破風、玄関両脇の塀から覗く前栽、京町屋風の欄干のある2階。いかにも伝統的な京都の銭湯という造りです。京都市の歴史的意匠建造物に指定されているのだとか。
脱衣場には、扉にガラスの嵌った木製ロッカー。ロッカーの中には長方形の柳行李。これぞまさしく由緒正しき京都銭湯スタイルですね! 浴室への入口上部には横長のタイル絵が。清水寺や金閣寺などの京都名所が描かれています。また、脱衣場男女仕切り壁の上には透かし彫りの欄間も。レトロ情緒満載ですが、古ぼけた感は全くありません。どれもきちっとメンテナンスされ整然としています。
浴室はまた一層ピカピカでした。恐らくそれほど遠くない過去に全面改装したのでしょう。男女壁寄りに普通の深風呂とジェット風呂、奥に薬湯、入口脇に水風呂。いずれも四角い浴槽で、余計な装飾などはないシンプルな造りです。京都の銭湯としてはこじんまりしたほうだと思うので、スペース的にあれこれ凝ったものを置けないという制約もあるのだと思います。レトロ感はあまりありませんが、使い勝手がいいのはありがたい。夜の9時台でしたが、女湯だけでも常にお客さんが数人はいるような状態でした。
上がってから、脱衣場の入口寄りにある、ソファの置かれた談話スペースでしばし休憩。ガラス戸から眺める前栽の坪庭には、池があって金魚も泳いでいます。あ~、風流だな~。常連さんらしき年配の女性が、髪を乾かしがてら涼んでいたので、ちょっと話しかけてみました。自宅に風呂はあるけど、1週間に一度くらいの割でここに来るのだとか。大きな風呂は気持ちいいし、顔なじみとも会えるので、と言っておられました。
お客さんに気持ち良く使ってもらうためにきちんとメンテナンスしつつ、古いスタイルは要所で残す、時には新しく作り替えてまで・・・というのがここの方針のようです。ガラス戸の木製ロッカー、柳行李、格天井、前栽、玄関の唐破風や町屋風の二階・・・といった京都銭湯のエッセンスが全部揃っている所は今や大変貴重ゆえ、「林先生(※林宏樹氏。京都銭湯愛好家の第一人者)もよく褒めてくれます」と、女将さんは誇らしげでした。ちなみに、店主ご夫妻は50代くらい(かな?)。銭湯あるじとしてはお若い方だと思います。
後述するつもりですが、この辺りは豊臣秀吉が建てた城郭風公邸「聚楽第」があった所で、聚楽第に由来するという伝承の井戸などもあります。秀吉は大の茶の湯好きだったこともあり、水にはこだわりがあったとか。そんな太閤さんが選んだ土地の水なのだから・・・と佐々木酒造も水の良さを売りにしています。佐々木酒造の銘柄には「聚楽第」というのもあるし。その論法でいけば、長者湯のお湯も聚楽第の湯、太閤さんの湯ということになりますね。そんな気分で湯に浸かるのも楽しいかも・・・。水道水と違って、水にもピンポイントの固有の産地があってストーリーがあるって、ロマンがあっていいですねぇ。
さて、今回の京都旅は1泊だけだったので、銭湯には一軒しか入れませんでしたが、宿の近くにはもう一軒「京極湯」(上京区東西俵屋町)という銭湯もあります。こちらもかなりのレトロ度と聞いていたので、長者湯とどっちに行くべきか随分迷いました。銭湯をはしごするのはキツいし。結局今回はパスした代わりに、せめて外観写真だけでも、と営業中の夜と翌日朝に京極湯を訪れました。
京極湯は「西陣京極」と呼ばれる、古くからの盛り場のただ中にあります。西陣京極とは、明治後期から昭和30年代頃まで、芝居小屋や映画館が立ち並び、大いに栄えた庶民的な娯楽の街。特に、地元西陣で働く西陣織関係の職人・工員さんたちで賑わったといいます。すぐ西隣のエリアに「五番町(西陣新地)」という遊郭もありましたが、こちら西陣京極は健全な娯楽街だったとのこと。しかし、昭和高度成長期に入ると遊郭(赤線)の廃止、市電の廃止などが相次いで地域の様相が大きく変わり、盛り場としての西陣京極は衰退の一途をたどったということです。現在は、わずかワンブロックほどの狭いエリアに居酒屋などが立ち並ぶ小さな商店街として命脈を保っているという状況だそう。
長者湯を出た後、すでに周囲は真っ暗でしたが、そう遠くはないので、京極湯まで歩いて向かいました。長者湯の前の通り(上長者町通)を西へ進むと、はるか突き当りにネオンサインが見えてきました。「千本日活」。以前2014年12月に、宴の松原跡~旧遊郭・五番町界隈を歩いた際にも目にした映画館です(→コチラ)。こういう位置関係だったんだと納得。この映画館は、五番町遊郭が廃止になった後、花街組合の跡地に建てられたものだそうです。遊郭とも西陣京極とも直接関係ありませんが、そんな盛り場の残り香を唯一伝えている現役施設として知られています。昼間に見るとただの老朽ビルだけど、こうして夜にネオンが浮かび上がると雰囲気出ますね。
京極湯は、そんな西陣京極のやや北寄りにありました。建物外観はある程度写真でも知っていましたが、予想以上にキッチュで派手な印象。このカラフル水玉模様の店名看板、いいですねぇ。季節外れのLEDツリー電飾にもグッときました。長者湯のような伝統的佇まいもいいけれど、こういうノリも大好きです。清心温泉的な部類かな。