東京 地獄めぐり③ |
まずは、墨田区本所の華厳寺。どの駅からも微妙に離れたお寺ですが、地下鉄蔵前駅から歩いてみたら10分余りで行けました。訪れた華厳寺は、想像していたのとは違って、とってもモダンな今どきデザインのお寺。この辺りは関東大震災・東京大空襲と再三の大被害に見舞われた地域なので、古い建物は残っていないのでしょうね。
正門入ってすぐ右にある閻魔堂も現代的。小堂内の参拝スペースに人が入ると自動的に照明がつきます。閻魔さまが安置されている部分は、全面ガラス張りのショーウィンドータイプ。正面に閻魔像、左脇には奪衣婆像も。
↓ 華厳寺(墨田区)の閻魔像。「本所の厄除け閻魔さま」と呼ばれているそう。
どこか漫画チックな風貌ですが・・・。
↓ 華厳寺の奪衣婆像。赤い照明で不気味さアップ!
このおばばさまも綿を頭に載せていますね。
寺務所で御朱印をいただきがてら伺うと、閻魔像は震災・戦災で失われてしまったので、戦後改めて作った新しいものとのこと。奪衣婆像のほうは、浅草の仏具屋さんが長年所蔵していたのを、戦後当寺が譲り受けたということでした。詳しいことは不明ながら、古い像のようです。今まで見てきた奪衣婆像と違って、シャープな彫りが独特の作風。両手や下半身が欠損しているところがまた、どことなくアートな雰囲気でいいですね。
このお寺も本尊は阿弥陀如来ですが、閻魔さまの御朱印にもすんなり対応してくださいました。いただいた御朱印に押されていた「本所北割下水えんま堂」というハンコが、江戸時代以来の由緒をしのばせて、ちょっと誇らしげに見えました。
次は港区芝エリア。徳川将軍家菩提寺の増上寺周辺です。
最初に金地院(港区芝公園)へ。東京タワーの足元というすごい立地のお寺です。ここは、徳川家康の肝いりで創建され、黒衣の宰相とも呼ばれた家康腹心の高僧・崇伝が開基、墓地には立派な大名墓がずらりと並ぶ格式高い寺院と聞いていたので、ビビり気味に訪問しましたが、気安く閻魔御朱印にも応じてくれて、いろんな意味で予想外でした。建物はどれもコンクリート造りの現代的なものだったし。古い堂宇はすべて江戸の大火と東京大空襲で焼けてしまったそうです。本尊の聖観世音菩薩も戦後新たに作った像だとか。
で、目当ての閻魔堂は、本堂前を右手に進んだ、墓地の入口付近にあります。
↓ 金地院(港区)の閻魔石像。格子戸のガラス越しに撮る。
この通り、高さ50cmくらいの素朴な石像です。欠損した鼻を修理してあるのか、鼻だけ黒いのが何だかユーモラス。江戸時代中頃の宝永年間には既に存在していたことが分かっているそう。石だったので度重なる火災や戦災にも焼け残ったようですね。
立派な墓石群などもちらりと目に入り、もっと見学したかったのですが、この時は同行者もいて何となく気が急いていたので、次の目的地へ。
次は、すぐ近くの宝珠院(港区芝公園)。増上寺の裏側みたいな場所です。こっちも予想外の寺観でした。増上寺別院と聞いていたので、それなりの門構えのお寺を想像していたら、なんか山里の隠れ寺みたいなうらぶれっぷり・・・。芝公園の一画というのでしょうか、公園と特に区切りもなく、木立の中を進むと、形ばかりの石灯籠一対があって、その奥にこじんまりとしたお堂が二つ三つ並んでいる、という具合。赤いのぼり、手書きの看板・・・なにこのホッコリ感。いかにも庶民的な民間信仰のお寺という感じ。こういうの嫌いじゃないです。むしろとっても好み。境内に散在する「三竦み(さんすくみ)」なるヘビ・カエル・ナメクジの石像なんか、苔むしちゃってるし。
閻魔堂は左手奥の庫裏と一体化したような、わりと現代的な(というか普通の民家みたいな)建物。前面にサッシのガラス戸がはまっていて、いつでもお像を拝見できるようになっています。
↓ 宝珠院(港区)の閻魔像。両脇に司録・司命が控える。
説明書きによると、この閻魔像は高さ2mの寄木造りの木像で、江戸前期の貞享2年(1685年)の作と伝えられているそうです。脇侍の司録・司命と共に、港区の文化財に指定されているとのこと。
また、司録・司命のそばに人頭杖(にんずじょう)があるのも注目です。人頭杖とは地獄の備品の一つ。杖(棒)の上に男女の頭が載っている道具で、閻魔大王による裁判の時に、被告の亡者の善悪を感知するという便利なセンサー装置です。その亡者の生前に善行が多いと、女性顔の「嗅ぐ鼻」から良い芳香が放たれ、悪行が多いと、男性顔の「見る目」の口から火が噴き出る、という仕組み(設定では・・・)だそう。
↓ 宝珠院の司録像と人頭杖「嗅ぐ花」(優しげな女性の顔の載った杖)
↓ 宝珠院の司命像と人頭杖「見る目」(怖そうな男性の顔の載った杖)
宝珠院の本尊は阿弥陀如来ですが、このお寺には閻魔の他に弁財天も祀られており、「開運出世弁財天」と呼ばれてこちらもまた古来大いに崇敬されてきたのだとか。なので、ご本尊、閻魔、弁財天の3種類の御朱印をいつでもいただけるとの情報を得ていました。ところが、庫裏のインターホンで尋ねると、閻魔御朱印は閻魔の縁日にしか出していませんとの答え。あれ?方針変わったのかな。単に住職さんが留守だったのか?
御朱印をいただけなかったのは残念でしたが、ここも都心だし再訪の機会はまたありそうです。
さて、ついに今回の地獄めぐり最後のお寺です。深川のハイテク閻魔さまとして有名な法乗院(江東区深川)。地下鉄の門前仲町駅が最寄ですが、実家から歩けない距離ではないので、散歩がてら徒歩で行ってみました。
ここは1月16日と7月16日の閻魔の縁日の他にも、毎月1日・16日はプチ縁日(?)として閻魔さまの御開帳を行っています。ちょうど今回の帰省最終日が16日だったので、この法乗院だけはあえてこの日に残しておきました。もっとも、普段でも正面のガラス窓を開けて、閻魔さまのおられる堂内はばっちり覗けるようではあります。御開帳の日は、自由に堂内に入ることができて、間近に四方八方からお姿を拝見できるという意味のよう。
↓ 法乗院(江東区)の閻魔像。鮮やかな彩色のせいか、妙にポップな印象。
お寺は現代の建物。閻魔像も新しく、平成元年(1989年)に作られたものだそう。寺の創建自体は江戸初期の寛永6年(1629年)とのことで、江戸庶民の信仰を集めた評判の閻魔さまだったそうですが、運慶作と伝えられる自慢の閻魔像は関東大震災の際に焼失してしまったとか。もちろん建物も。
そんなこんなで、もう古さアピールは放棄したと見え、寺の公式HPにも詳しい沿革はほとんど載っていません。むしろ新しさを追求して、閻魔さまはハイテク(?)です。像そのものは彩色が派手なだけで、普通に寄木造りの木像(高さ3.5m)ですが、賽銭箱に仕掛けがあり、お願い事ジャンル別に19の投入口が設けられていて、賽銭を入れると閻魔さまのご託宣(説法?)の音声が音楽と共に自動で流れ、堂内の照明が意味ありげに点滅するというもの。う~ん、なんかパラダイスちっくだなぁ。私は一回しか賽銭を投入しなかったけど、投入口によってそれに合わせたいろんなお言葉が聞けるのでしょうか。参詣者が面白がって次々に賽銭投入するのを狙っているのかな。お言葉は何だか抽象的で、ジャンル別に分かれている意味が今一つ活かされていないように感じました。
ゑんま堂内に入ると、閻魔像の背後に別の小部屋があって、ここで護摩木を投入すると正面の白い壁に極楽浄土的な映像が映し出される、となっていました。これもハイテクの一つなんでしょうね。でも、護摩木代が500円と高かったので試さず・・・。
本堂の1階には、江戸中期の作という地獄極楽絵がびっしり掲げられています。縁日のこの日には絵解き説法のパフォーマンスがあるそうですが、時間が合わなかったのでこれもパス。でも、地獄絵自体は一人で勝手に見ても結構楽しめ(?)ました。三途の川での奪衣婆の場面(前々回「東京 地獄めぐり①」の冒頭で紹介したもの)、「九相図」的な遺体の変化図、閻魔大王の裁きの場面、様々な地獄の責めの場面、などなど。とにかく大量なので、つまみ食い的な見学で終わらせましたが。ちなみに本尊は大日如来。
↓ 法乗院の「地獄極楽図」より。九相図(遺体が朽ちるまでの九段階を
↓ 法乗院の「地獄極楽図」より。閻魔大王の裁きの場面。
司録・司命や人頭杖も描かれている。
この本堂も全体に金ピカとミラー満載で、未来感(?)炸裂でした。江戸以来の歴史ある信仰の場がこんなんでいいのか・・・。でも、まあ、民間信仰としては「あり」なのかもしれませんね。とにかく東京の閻魔さまのお寺としてはここはダントツ有名。人々の関心を引き付け、物見遊山的楽しみも兼ねてのお参りにいざなう、なんてのは大昔からお寺や神社がやっている手なので、その現代版と思えばいいのかな。
寺務所で閻魔さま御朱印をお願いしたところ、住職が不在らしく、ハンコでもいいですか?とのこと。せっかく縁日を狙って来たのに・・・。やはり手書きの墨書きがいいので、今回は断念してまたの機会にいただくことにしました。実家からも近いので何かのついでに・・・。
最後に訪れたお寺が、お腹一杯気分の見学となったので、まあ、こんな感じで終わってちょうど良かったかも。こうして並べてレポートしてみると、東京滞在中ずっと閻魔詣でしていたみたいに見えますが、いろんな用事の合間合間でこまめにこなせた結果です。東京の公共交通網の充実ぶりは半端じゃないので、たやすく気軽にあちこちに行けるのですよ。時刻表とにらめっこして、駅やバス停で20分も30分も待って・・・なんてことしなくていいのは本当に気分爽快!
今回、下調べ段階でリストアップした閻魔・奪衣婆のいるお寺はたくさんあり、まだ訪問しきれていない所だらけなので、次の上京の際には、またチャレンジしたいと思います。楽しい地獄めぐり、お薦めです!
↓ 今回集めた御朱印。11ヶ寺訪ねて5つ。かなりの高確率だと思います。
閻魔&奪衣婆御朱印だけで1冊、御朱印帳“地獄篇”にするというのが目標。